【残留農薬の基準について】検出があった時の判断を解説

そもそも残留農薬の基準値ってどのように設定されているの?

食事

食品にはそれぞれ残留農薬基準値が設定されています。その基準値は、人が毎日農薬を摂取したとしても健康に悪影響がないと推定される1日当たりの摂取量(ADI:Acceptable daily intake)と一度に農薬を摂取した際に悪影響がないと推定される1日当たりの摂取量(ARfD:Acate Reference Dose)の2つの情報から設定されています。また、作物ごとに農薬の使用方法が違ったり、残留量の違いがあるため、基準値は作物によって異なります。

しかし、すべての食品には農薬の基準値が設定されているわけではありません。設定されていない農薬に関して、以前は規制の対象外でした。そこで、食の安全確保を目的としたポジティブリスト制度が2006年に始まりました。この制度は、基準値のない農薬に関しても、一律0.01 ppmという非常に厳しい基準値を設定するものです。0.01ppmとは、25 mプールの水にスプーン1杯の農薬を入れた程度の非常に薄い濃度です。

残留農薬の基準値は、厚生労働省が管轄する食品衛生法という法令が関わっています。残留農薬の基準値は、人の健康が害されないよう、安全性をしっかりと評価し、定められているのです。

(参照:日本農薬学会「残留農薬分析知っておきたい問答あれこれ」 改訂4版 2018.)

残留農薬の基準について

食品の残留農薬検査を分析機関にお願いしたものの、「成績書が送られてきたけど見方が分からない」、「農薬が検出されているけど大丈夫なの?」等といった問い合わせをいただくことがあります。

そこで今回は、そのような疑問を簡単3ステップで解決できる方法をご紹介します。

ステップ1:まずはここを見よう

上の画像は食の安全分析センターで残留農薬400成分一斉分析を依頼したときの残留農薬検査成績書の一部例になります。まず、赤い点線で囲まれれた部分を見ると、検出された農薬と検出濃度が記載されています。例えば、農産物の小松菜を残留農薬検査して「シアゾファミド 0.4 ppm」の農薬成分が検出された場合について考え、この結果が問題がないかを確認していきましょう。

ステップ2:基準値を参照しよう

日本国内の残留農薬基準値情報は「残留農薬基準値検索システム」で確認することができます。

農薬の基準値を『農薬成分』または、『作物』から調べることができるのですが、どちらでも調べることができます。今回は作物(小松菜)から「シアゾファミド」の基準値を調べます。

『食品分類から探す』の「か行」を選び、『検索』ボタンを押すと作物一覧が開くので、その中から「こまつな」を選択します。

農薬成分が50音順に並んでいるので下にスクロールし、「シアゾファミド」を探すと、基準値は15 ppmであることが分かります。

今回の成績書の例では、小松菜のシアゾファミドは0.4 ppmの検出濃度であったため、基準値を下回っていると判断できます。

ステップ3:農薬適用もチェックしよう

また、農薬は使用できる作物と使用方法が決められており、これは基準値と同じくらい大事な確認項目です。検査した作物に使用できる農薬かどうかは「農薬登録情報提供システム」で調べます。

農薬名や作物名などからも検索はできるのですが、今回は『様々な項目から探す』での方法を説明します。

↓にスクロール

『様々な項目から探す』をクリックすると、上の画像のような画面が開きます。『農薬の種類』の」欄に「シアゾファミド」と記入し、『作物を選択』で「野菜類」・「葉菜類」・「非結球アブラナ科葉菜類」・「こまつな」を選択して、ページ下にある『検索』をクリックすると『農薬登録情報一覧』が開かれます。

今回は検索結果が表示されたため、「シアゾファミド」は小松菜に使用できる農薬であることがわかります。もし『検索結果がありません。条件を変更して再度検索してください。』と表示された場合は、調べた農薬には適用がないという可能性があります。

まとめ

今回は小松菜の残留農薬検査でシアゾファミドが0.4 ppm検出されたと想定して、それが問題あるかどうかを考えました。

チェック1では、試験成績書のどこを確認すればいいのかお伝えしました。

チェック2では、実際に小松菜でのシアゾファミドの基準値を調べました。基準値は15 ppmであったため、今回の検出濃度は基準値以下であることがわかりました。

チェック3では、検出農薬であるシアゾファミドが小松菜に使用しても良い農薬かどうかを調べ、使用して良い農薬であることがわかりました。

それらの結果から、今回の農薬検出は国内流通に問題ないと判断することできました。

残留農薬試験を依頼し、成績書を受け取った際は、農薬の基準をこのような手順でぜひ確認してみてください!

記事の監修

酒井美穂

酒井美穂 技術課長

大阪大学大学院工学博士。

宮崎県食品開発センターでの食品の機能性成分分析や、宮崎県総合農業試験場で食品中の残留農薬分析に長年にわたり従事し、食品の高付加価値化や、食の安全安心に貢献してきた。